はじめに
債務整理の方針を決定する場合、支払能力がどの程度あるかは重要な目安となります。
支払能力が全くない場合には、自己破産を選択せざるを得ませんが、支払能力がある場合には任意整理か個人再生のどちらかを選択することになります。
この記事では、ゆう法務事務所の司法書士が、任意整理と個人再生、どちらの手続を選択するべきか詳しく解説します。
任意整理とは
任意整理は、貸金業者等の貸主(債権者)と借主(債務者)が、裁判所を通さず話し合いによって弁済方法を決めていく手続です。
通常債務者の代理人として弁護士や司法書士が債権者と利息のカット、1回あたりの弁済金額や弁済期間について交渉し、合意したら和解が成立、その和解内容どおりに弁済を行っていきます。
個人再生と比べ収集する書類が少なく、裁判所による調査もないので、比較的短期間で手続が完了します。また、自己破産や個人再生とは異なりすべての債権者を手続に加える必要はありません。
個人再生とは
個人再生は、裁判所を通して進めていく手続で、手続中に作成する再生計画案の認可を受けることによって、債務を大幅に減らすことが可能です。
しかし、裁判所に提出する書類が多く、任意整理に比べ手続期間が長期にわたります。また、任意整理とは異なり、会社からの借入、保証人がついている借入やローンで購入した商品の残債等すべての債権者を手続に加える必要があります。
任意整理と個人再生の共通点
支払能力が必要
任意整理、個人再生ともに弁済することを前提とした手続なので、継続的な支払能力が必要です。任意整理の場合、継続的な支払いができなければ、債権者から一括請求されたうえに訴訟を提起される可能性もあります。
また、個人再生の場合では、裁判所から支払能力がないと判断されたら再生計画案が認可されず、たとえ再生計画案が認可されたとしても、支払いが滞れば認可された再生計画が取り消される可能性があります。
返済期間
任意整理、個人再生ともに3年~5年の分割弁済が原則です。ただし、任意整理の場合、強制力のない話し合いでの交渉なので、債権者によっては3年より短期での弁済を求められたり、逆に5年より長期での弁済を認めてもらえたりします。
また、個人再生の場合3年間の分割弁済が基本で、裁判所が長期分割を認める特別な事情があると判断した場合のみ4年以上の分割弁済が認められます。
財産処分
任意整理、個人再生ともにローンで商品を購入し、その支払が残っているものは引き上げの対象となります。ただし、任意整理の場合はそのローン業者を手続に加えないことによって、引き上げを回避できます。また、個人再生の場合は、住宅ローンに限り支払い続けながら手続を進める住宅ローン特則という制度があるので、自宅の競売を回避することが可能です。
資格制限
自己破産の場合、弁護士等のいわゆる士業や保険外交員など一定の職業に資格制限がかかるので、手続に支障をきたす場合がありますが、任意整理や個人再生ではこのような資格制限はありません。
任意整理と個人再生の違い
手続可能な条件
任意整理も個人再生も継続的な支払い能力が求められることは上記のとおりですが、個人再生の場合、それに加え住宅ローンを除く債務の合計額が5000万円以下であることが必要です。
債務減額の度合い
任意整理の場合、利息制限法を超える金利を取られていた場合その部分について減額が可能(引き戻し計算)で、場合によっては過払い金としてお金が戻ってきます。
しかし、平成18年以降は利息制限法を超える金利での契約ができなくなったので、引き戻し計算によって債務を大幅に減額できるケースは減っており、今後支払わなければいけない利息のカットや1回あたりの返済金額の調整が主な交渉内容となっています。
個人再生では、借入総額や財産額によって異なりますが、裁判所の決定により最大で借入総額の80パーセント程度の減額が可能です。
例えば、借入総額が300万円だった場合、それぞれの手続で次のような弁済計画となります。
任意整理:月額5万円を5年間支払い、合計300万円の弁済で完済
個人再生:月額2万8000円を3年間支払い、合計100万円の弁済で完済
財産状況や引き上げの有無等で異なってはきますが、上記のとおり任意整理に比べ個人再生の方が借入総額の大幅な減額が見込めます。
手続の費用
手続には、弁護士や司法書士の報酬、裁判所に提出する書類に貼る収入印紙代、郵便切手代等の費用が必要です。
それらにかかる費用の合計額として、任意整理は1社あたり5万円程度、個人再生は手続全体にかかる合計額で30万円~50万円程度を設定している弁護士・司法書士事務所が多く、任意整理に比べ個人再生の方が費用の負担は大きいと言えます。
手続の負担
任意整理の場合、裁判所を通さず、弁護士や司法書士が債務者に代わって交渉するので手続きにかかる負担はほとんどありません。
個人再生の場合、収入や支出、財産の状況を裁判所に提示する必要があるので、債務者やその家族に多くの書類を集めてもらい、弁護士・司法書士事務所で打ち合わせを行う必要があります。
また、場合によっては債務者の自宅に裁判所からの書類が届いたり、裁判所への出頭を求められたりと、任意整理に比べ手続にかかる負担は大きいです。
保証人への影響
任意整理の場合、保証人がついている借入がある場合には、その債権者を手続から外すことによって、保証人への請求を回避できますが、個人再生ではすべての債権者を手続に加える必要があるので、保証人がついている借入は、保証人に一括で請求が行ってしまいます。
任意整理と個人再生、どちらがおすすめ?
任意整理がおすすめのケース
保証人がいる場合
保証人がついている借入がある場合、個人再生手続をとると保証人に一括で請求が行ってしまいます。
どうしても保証人に迷惑をかけられない場合には、個人再生より任意整理がおすすめです。
家族に内緒で手続したい場合
個人再生では、継続的な返済が可能かどうかを裁判所が調査するために、場合によっては、債務者の家族の収支状況がわかる書類を提出するよう求めくるので、家族に内緒で手続きを進められない可能性があります。そのような場合は、個人再生より任意整理がおすすめです。
手続を簡単に済ませたい場合
個人再生では、債務者自身や場合によってはその家族に多くの書類を集めてもらったり、数度の打合せが必要であったりします。そのような負担を避けたい場合には、個人再生より任意整理がおすすめです。
個人再生がおすすめのケース
借入の額が大きい場合
任意整理は、利息のカットや返済回数や期間の交渉が主な手続内容なので、債務の大幅な減額は望めません。借入総額が500万円以上あるような場合、任意整理では月々の弁済が8万円を超えてしまいます。
このように借入総額が大きい場合には、大幅な減額が可能な個人再生の方がおすすめです。
給与等に差押が入っている場合
債権者への支払いが滞れば訴訟提起、判決の後、給与を差し押さえられてしまう可能性があります。給与を差し押さえられたら、その4分の1を弁済に充てられてしまうので生活にかなりの影響が出てしまいます。
また、そのような状況で交渉しても債権者は差押によって弁済を受けられるので、任意整理による交渉の余地はかなり少なくなってしまいます。
このような場合、個人再生手続きを進め、裁判所から個人再生手続き開始決定がでると債権者による給与差押は止まるので、給与を差し押さえられる可能性が高い場合には、個人再生の方がおすすめです。
まとめ
任意整理と個人再生を比べてみて、それぞれの手続に特徴があることがわかっていただけたかと思いますが、借り入れ状況や財産状況は人それぞれで、ご自身にあった手続をもっとよく知りたいという方もおられると思います。
そのような方は、すぐにゆう法務事務所にご相談ください。経験豊富な司法書士が、様々な状況をしっかりと確認し、ご自身に一番合った債務整理の方法をご提案いたします。
この記事の著者
司法書士法人ゆう法務事務所の司法書士。大阪司法書士会所属。登録番号「大阪 第4290号」、認定番号「第1112011号」
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