はじめに
自己破産をする場合には、勤務先に連絡が入ったり、逆に自己申告が必要だったり、最悪の場合には仕事を辞めたりしなければいけないのかという相談が、多くの方から寄せられます。
この記事では、大阪の司法書士法人「ゆう法務事務所」の司法書士が、自己破産と仕事の関係について詳しく解説します。
自己破産をする際の勤務先への対応
自己破産をするからと言って、原則勤務先にその事実を申告する必要はありません。
また、何らかの理由で勤務先に自己破産をすることが知られてしまっても、そのことのみを理由に解雇をすれば、不当解雇に該当する可能性が高いので、過度に不安を抱く必要はないでしょう。
しかしながら、以下のケースでは借入があることを勤務先に知られてしまう可能性が高いです。
借入先からの連絡を無視しているような場合
貸金業法では、正当な理由なく勤務先への取り立て行為を禁止していますが、借主が貸主からの連絡を無視しているような場合などは、勤務先への取り立て行為が正当なものと認められる可能性があります。
借入先が訴訟提起した場合
借入先が訴訟を起こす場合も、裁判所からの書類は原則自宅に届きますが、受け取りを拒否した場合や、そもそも借入先が自宅を知らないような場合には、裁判所からの書類が勤務先に届く可能性があります。
また、訴訟を起こされて判決を取られてしまうと給与の差し押さえが可能となるので、その場合にも勤務先には知られてしまうでしょう。
勤務先から借入がある場合
自己破産をする場合、すべての借入先の支払いを直ちに止め、破産手続きに加える必要があります。勤務先から借入がある場合も例外ではなく、そのような場合には自己破産をすることを勤務先に知られることになります。
資格制限について
上記のケースを除けば、勤務先に破産の事実を知らせる必要はないですが、一定の職業については制限がかかり、破産手続中は該当する資格や職種の仕事ができません。
ただし、この制限は一時的なもので、一定の公務員を除き、免責許可決定を得るなどして復権すれば、再度その仕事に従事することが可能です。
資格制限の対象となる職業
士業
弁護士、司法書士、税理士、公認会計士等の士業の場合、自己破産は欠格事由に該当するため制限を受けます。しかし、欠格と言っても資格をはく奪されるわけではなく、復権すれば再度登録が可能です。
公務員
人事院の人事官や教育委員会の委員などは資格制限にかかり、その役職についている方が破産手続を開始した場合には退職となります。
しかしながら、国家公務員、都道府県市町村の職員、警察官や学校教員などのいわゆる一般的な公務員について資格制限はありません。
その他一定の職業
金銭を取り扱う職業は資格制限にかかりやすい傾向です。具体的には貸金業登録者、質屋を営む者、生命保険の外交員や警備員などがこれに該当します。これらの職業も復権するまでは、その仕事に従事できません。
資格制限以外の仕事への影響
取締役等の会社役員は、会社と委任関係にありますが、自己破産をすることによって委任契約が終了するので、役員の地位を失います。
ただし、会社役員は上記資格制限を受ける職業とは異なり、破産手続終了前(復権前)でも、破産者を再度役員に選任することが可能です。
資格喪失には、何も手続きをすることなく資格喪失するケース(当然喪失)と、手続きを経て喪失するケースがあります。
当然(何ら手続をすることなく)喪失
士業、警備員などは破産手続を開始した段階で資格を取得することができないだけでなく、すでに資格を持っている人も復権までの間、何らの手続によらず資格が使えなくなります。
また、会社役員の地位も何らの手続によらず失われますが、破産手続開始後復権までの間に、破産者を再度会社役員に選任することが可能なのは前述のとおりです。
手続きを経て喪失
生命保険外交員については、破産手続を開始した段階で、新たにその資格を取得することはできませんが、すでに生命保険外交員の資格を持っている人については、保険会社が外交員登録取り消しの手続をするまでは、その資格を使って仕事を続けることが可能です。
復権の方法
破産手続開始により資格制限を受けても、復権すれば再度その仕事につくことができるケースがほとんどということは、先ほどからお伝えしているとおりです。では、復権するにはどのような方法が必要でしょうか。
復権には、当然(何ら手続をすることなく)復権と申立による復権の2種類があります。
当然復権
免責許可決定が確定したとき
裁判所による免責許可の決定によって復権します。免責許可の決定が出ることにより、破産手続はそこで終了し、破産者ではなくなるので資格を制限する理由がなくなるからです。
破産手続開始から免責許可の決定まで、多くの場合3か月から6か月程度の期間を要します。復権の大部分が免責許可決定の確定によるものです。
債権者の同意により破産手続きの廃止が確定したとき
破産者が裁判所に対し、破産手続きを廃止してくださいと申し立て、すべての債権者が同意した場合には復権します。
しかしながら、少額であっても債権者に配当を行う破産手続きの廃止について、すべての債権者が同意するケースはほぼないでしょう。
再生計画の認可決定が確定したとき
ギャンブルや浪費の度合いが激しいなどの理由で免責許可決定がなされない場合、個人再生手続きに移行するケースがあります。
裁判所が個人再生手続きにおいて再生計画を認可した場合には、個人再生手続きに移行した破産者は復権します。
破産詐欺罪で有罪になることなく10年が経過したとき
こちらも免責許可決定がなされないケースですが、個人再生手続きに移行しなかった場合です。
端的に言えば破産手続の申立のみ行って、免責が得られない状態で放置しているようなケースですが、このような場合でも破産詐欺罪に問われない限りは10年たてば復権します。
申立による復権
以下は「破産法第256条」の第1項です。
破産者が弁済その他の方法により破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは、破産裁判所は、破産者の申立てにより、復権の決定をしなければならない。
こちらは、当然復権とは異なり、破産者が裁判所に復権をお願いした場合です。
例えば、破産手続きを開始し免責許可の決定を得ることができなかったが、頑張って借入れのすべてを返済した場合などに、裁判所に破産者でなくなるよう申立をすることによって復権します。
まとめ
自己破産の手続をすることにより、勤務先に知られてしまう恐れがあったり、就いている職業によっては資格の制限がかかってしまいこれまでどおりに働けない可能性がありますが、そのような可能性を過度に心配していては、自己破産によりやり直す機会を失ってしまうことも十分に考えられます。
今回の記事を読んでいただいて、ご自身の仕事についての影響をもっと詳しく知りたいかたは、すぐにゆう法務事務所にご相談ください
経験豊富な司法書士が、勤務先や資格への影響の有無について、また、影響がある場合には個人再生や任意整理といった、ほかの方法による債務整理をご提案いたします。
この記事の著者
司法書士法人ゆう法務事務所の司法書士。大阪司法書士会所属。登録番号「大阪 第4290号」、認定番号「第1112011号」
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